戦場の優等生

無事漫画祭りは終わりましたが、連載の〆切はすぐやってきます(^^;
単行本二巻も近々出る予定ですので、その作業もありますしね。
二巻にはこのブログで書いた設定が多数収録される予定です。

と言うわけで今回は#9から鳴り物入りで登場した新型Strv“ドル・ダレッド”です。名前はかの有名な中東某国の主力戦車の改良型から。意味よりは語感でつけました(^^;
「マダン」がティーガーなら、“ドル・ダレッド”はパンターです。機動性と火力、防御力のバランスが高いレベルで取れている「戦場の優等生」としてデザインしました。

Strvが機動砲兵として開発されたのは以前の記事でも語ったとおりですが、お互いの陣営に新機軸の兵器が行き渡るとそれに対するカウンターメジャー(対抗手段)が求められるのはいつの時代も同じです。
戦車も元々は塹壕突破用の兵器であり、歩兵支援のための移動砲兵でした。
「毒をもって毒を制す」の言葉どおり、当然Strvに対抗するにはStrvが有効であることは言うまでもありません。ですが、王国側の「サブラ」にせよ市民軍側の「カイラー」にせよ、決して最初から対Strv戦を構想して設計された車輌ではありませんでした。そのため、お互いの火器の有効半径よりも接近した様な時に有効な攻撃手段が存在しなかったのです。
それに対する回答の一つが市民軍の「スピゴット」であり、やや遅れて出たのが今回の主役“ドル・ダレッド”でした。
“ドル・ダレッド”の設計は戦争突入後に始められ、その開発には主力Strv「サブラ」と重Strv「マダン」の経験が生かされています。外装や内部システムにも類似点は多数あり、いわゆる「いいとこ取り」の設計とも言われます。
しかし、この車輌が単なるいいとこ取りの八方美人ではなく、バランスの取れた「王国最良のStrv」とまで言われるようになったのはその運用思想が的確だったから、と言えるでしょう。
Strvの機動性と火力を生かす戦術を仔細に分析してえられたノウハウが各部の設計に存分に生かされています。
まず基本フレームは「マダン」と「サブラ」の中間に位置するサイズにまとめられ、出力重量比の向上で機動性が向上しています。また駆動系もモーター配置の見直しとフライホイール・バッテリーの改良で効率が改善され、駆動時間は「マダン」の125%増しになりました。
フレーム自体は「マダン」のものを基本としていますが、材質の改良で剛性を増しより強烈な反動を吸収できるようになって運用の柔軟性はあがっています。走行速度や方向転換の反応スピードも向上し、より機動戦に適応出来るようになっています。
剛性が高まったフレームを前提として装備されたのが、連射速度を重視した火器「75ミリ速射破壊砲」です。タングステン弾芯による貫通力と発射速度の向上による打撃力の確保で近〜遠距離に対応できるオールラウンドの火器として設計されました。唯一やや大柄なのが難点ですが、それを新型フレームの高い剛性とパワーで押さえ込んでいます。発射速度は三段階に調整でき、三点バーストでの発射も可能です。
また、もう一つ高剛性の恩恵を受けているのが近接戦闘用の装備「スクラマサクス」です。この幅広の刀身は表面に磁性体がコーティングされ、電磁誘導によって高速で射出することが出来るうえに状況に応じた長さで突出させて斬撃用兵装として用いることが出来ます。この装備によって、これまでのStrv戦で空白だった接近戦におけるさまざまなレンジに応じた攻撃力を実現できました。
斬撃武器と言ってもStrvの主装甲を切り裂くようなことは不可能で、関節部の脆弱な部分を狙うか、打撃による衝撃で相手を先頭不能にします。この装備も高剛性の衝撃吸収フレームを前提にしていて、“ドル・ダレッド”独自の兵装と言えるでしょう。
高剛性のフレームに装着される装甲は、マダンと共通の材質を使った複合装甲で厚みや耐久度はさすがに重Strvである「マダン」には劣りますが、カイラーの122ミリ砲に十分耐える強度を誇っています。
さらに機動性を重視した“ドル・ダレッド”の特徴は頭部に3本のスリットが入った複合センサーを装備していることで、認識角の拡大と被弾時の冗長性双方の向上を図っています。

唯一現場の兵士から意義が上がったのが、乗員が二人と言う点でした。コンパクトな設計である限り仕方ないことなのですが、乗員のワークロードは増えざるをえず、特にマダンから転換する乗員からは不評だったと言います。射撃システムの簡略化などで運用上は問題が無いと判断されましたが、見張りと射撃両方を担当する車長の負担は大きいと言えます。

いくつかの新機軸を備えながら比較的開発はスムーズに進み、王国陸軍は5000台の大量産計画を立て大きな期待をかけました。しかし、それを阻んだのがアルスナル王国の裏切りによる希少金属の枯渇です。高剛性のフレームを生産するのに必要な金属が不足し、生産計画は大幅に遅れました。現場の混乱も手伝ってその混乱は王都陥落まで続き、わずか350両の“ドル・ダレッド”しかロールアウトできなかったのです。しかもそれらは各戦線に逐次投入され、その性能をフルに発揮できる機会には恵まれませんでした。個々の戦闘では高性能を発揮して光るところを見せたのですがその輝きは敵市民軍の濁流のような攻勢の前にかき消されてしまったのです。