懐が活路であり、離れれば死地となる

またまた一ヶ月以上空いてしまった更新です…orz
もう見てる人もいなさそうですが、書きます。

第4話「女神の睥睨」でチラッと登場した敵市民軍の新型Strv“スピゴット”は第6話「スピゴット・ダンス」劇中でネメシス隊とマダンを危地に追い詰めました。長槍しか持っていないマダンの死角を見事についたこの車両はどのようにして生まれたのでしょうか?

Strvが実用化されたのは、重量に見合わぬ火力を柔軟運用できるメリットがあるからだと以前書きました。そうなると、かつて偵察機を打ち落とすために戦闘機が登場したようにカウンターメジャー(対抗策)が考えられるのは当然の展開です。
いち早く第二世代のStrvを開発した市民軍側は、自分達がその威力を証明した新兵器を敵対勢力が開発したときのことを考えてその対抗策を考えていました。
火砲の威力・精度共に当面の敵である王国側に劣っていることを十分承知していたからこそできる迅速な計画の立ち上げであったといえましょう。
傑作車となる「カイラー(市民軍の呼び名はPz66)」をベースにすることで設計の手間を軽減して量産にも配慮することが決まり、「カイラー」に遅れること1年4ヵ月後に開発が開始されます。
重視されたのは、接近戦における機動性と突破力、そして確実に相手にダメージを与えるための武装でした。まず、機動性を確保するために両脚のサスペンションは大幅に強化され、外見はカイラーと変わりませんが1.7倍の走行速度を実現しています。さらに、火薬式シリンダーを併用することで驚異的な跳躍力を持つことに成功して運用の幅を大きく広げました。山岳地帯や森林地帯における立体的な戦闘が可能となったのです。
一方、当然接近するためには相手の火砲にさらされる機会が多くなることから前面に二重三重の増加装甲が施され、コクピットやマニピュレーター基部など重要部分が入念に保護されています。しかし、必要以上の重量の増加は望ましくないことから下半身の装甲強化は省かれました。その代わり、上半身を大きく前傾させる独特のシルエットを保たせることで下半身のカバーと前面投影シルエットの縮小を果たしています。
接近戦において有効な武器と言うものはデータに乏しいこの時期は試行錯誤の段階でした。身体全体で反動を吸収するコンセプトが前提である以上、大型の火砲を装備することはせっかくの機動性を相殺してしまうからです。そのため、早い段階で胴体への武装の装備は諦められていました。
とはいえ、カイラーが装備している40ミリ機関砲程度では一撃必殺の威力とは言いがたく、武装の選定は難航したのです。
その解決策はある事故から見いだされました。当時関節部のカバーが行き渡っていなかった頃に異物を挟む事故が多発したのです。対策として関節カバーの増産と配布が急がれたのですが、これをヒントにして関節部に撃ち込む粘着榴弾の開発が提案され実用化寸前だったのです。歩兵用に作られたその弾体をスケールアップしたそのHESH弾はリボルバー弾倉に収められて腕部に装備され、強力な爪で相手の関節部など隙間に固定された上でその弾を撃ち込む方式がとられて模擬戦の結果非常に有効であることを証明したのでした。

軽快な機動性と前面のみに特化した耐久性、そして一撃必殺の武装を携えた新型Strv「スピゴット」は3月攻勢から実戦に投入されました。一部の条件がそろった地域では対Strv戦において有効であることを証明しましたが、一方で損害も大きく、機動性の高さが逆に乗員の消耗を早めて「後家作り(ウィドー・メーカー)」との悪評も頂戴してしまうのです。
しかも、途中から投入された一点突破用の投射型ロケットブースターの使用もその消耗に拍車をかけ、約3000両作られた「スピゴット」のうち実に65%が失われたとも言われます。
そのため、大戦末期にはスピゴットはごく一部の部隊にのみ配備されることとなり、カイラーの装甲強化型である「Pz66Fフェアゴルデター」や新たなコンセプトで開発された中型Strv「KPz70」にその立場を譲ることになります。
ある一時期だけ突出した戦績を見せたこの車両はある意味徒花となりましたが、機動性を向上させるための試みは後の車両に生かされていて、機動性と火力を高バランスで両立させた新型Strvの開発に大いに役立つことになるのです。

マダンと対照的な「天敵」として考えた新型ですが、結構狙い通りの使い方が出来たのではと思っています。砲撃戦ばかりだったFBワールドにもいい刺激となったのではないでしょうか。非人間的なシルエットと言う市民軍の共通コンセプトを堅持するべく、某トカゲライダーをモチーフにしました。最初はやりすぎかなとも思ったのですが、これに乗るキャラクターのおかげもありいい意味でキャラが立ったメカになりました。
カイラーと共通パーツを多くすると言うのは最初から考えていたコンセプトの一つで、これもスラブ式合理主義の塊であるT34系列車両からの発想です。その意味では、共通部品がまったく見当たらない王国側のStrvの設計思想とは対照的にしてあります。