胸甲騎兵の誇りとともに

例え科学の粋をこらした最新兵器であろうとも、お国柄を反映しているものです。物理法則の制限がキツくて飛べなくなると困る飛行機ですらそうですから、比較的縛りのゆるい陸戦兵器ではそれが分かりやすく反映されます。
例えば「一度もガチンコ勝負の経験がないのにベストセラー」というドイツのレオパルド2A6などは、長大な砲身と楔形の増加装甲の組み合わせがかつての神聖ローマ帝国のマクシミリアン式フリューテッドアーマーを着込んだ騎士を連想させます。
また、最強を自負する米国のエイブラムスM1A2などは、無造作に張り出す重厚な前面傾斜装甲ときわめてシンプルな車体のマッシブさがストレートにマッチョな筋肉質を連想させて、その単純さと合理性がいかにもアメリカらしい無敵感を象徴しています。
ことほどさように国民性が反映される陸戦兵器ですが、Strv.122「マダン」の場合はどうなのでしょうか?

マダンのシルエットを決定づけているのが頭部の長大な鶏冠です。有視界戦闘ではギンギンに目立つ真っ赤なこの付属物は狂気の沙汰と言っても過言ではありません。
しかし、この鶏冠にはヴァンゲン乗りに共通する誇りが象徴されているのです。
主人公ミゥラ君がいるこの王国では、近代化の後も立憲君主制が敷かれていました。11の王国が一つの王朝を支える連合王国政を国の柱としてきたのです。北に巨大で強大な国を持つこの国としては、その圧力に対抗するために小さな都市国家同志が集まるしかなかったのです。
実際この連合制は上手く機能し、数々の戦乱を守り抜いてきました。ひとえに十二翼委員会の音頭をとる王朝と各連合国とのバランスが取れていた事もありますが、強大な敵が常に北に控えていた事がその結束を固めるのに役立っていました。
その常に緊張を強いられる国境、「緩衝ベルト」で防人となっていたのが分厚い胸甲と派手な鶏冠のヘルメット“キュラスイア・ハウベ”(注1)をかぶった“長槍と胸甲”<ウーラン・クーラス>騎士団でした。彼らは各王国から選抜された精鋭部隊で、機動力と突破力を武器に国境紛争の火消し役として活躍したのです。
やがて得物は長槍から火器へと変わっていきますが、彼らを象徴する胸甲と“キュラスイア・ハウベ”は変わらずあり続けました。そして何百年もの長きに渡って国境線を護り続けていた彼らのシルエットは国民一人一人の脳裏にその強さとともに焼きついていったのです。
それは科学技術が進んで二足歩行兵器が開発されても変わりませんでした。
なし崩しの侵攻に急遽対Strv車両として開発された「マダン」は“長槍と胸甲”騎士団のコンセプトを色濃く反映した兵器として生まれました。重厚な胸甲と圧倒的な得物。国境を護る巨大な騎士として生まれたマダンの頭部にあの“キュラスイア・ハウベ”を模した装束が付加されるのは必然だったのです。
もちろんこれは精神的影響だけを考えた飾りではありません。磁性群体の影響下で長距離砲戦をするためのセンサーが埋め込まれています。ほとんどは磁性群体から保護するために見えませんが、この装備によってマダンはサブラとは比べ物にならない索敵能力を持っています。
頭部は基本となる球形の光学センサー基部に“キュラスイア・ハウベ”を載せた形になっていて、さらに正面をスリットバイザー、側面をスカートアーマーで覆い、防御に配慮しています。上下二つのカメラアイの動きは車長と砲手それぞれのの視線と連動し、別の方向を向いたまま射撃する事もあります。また、操縦士の視界は頭部カメラと胴体部のカメラの複合したデータから合成されるもので構成されます。これは、マダンを特徴付ける楔形に張り出した胸甲が邪魔で足元が見え辛いからです。

写真は連載前に作画参考用に作った頭部ミニチュアです。1/60PGザクの頭をベースに切った盛ったしたのでスケールは1/48ぐらい? 自分でデザインしときながら鶏冠の形状が掴み辛かったので作りました。やっぱり立体があると描くのが楽になります。全身あればもっといいんですが、作ってる暇も腕もない…orz

(注1):Kurassier haube 英語表記では「クラッシャー・ヘルメット」プロイセン王国のフリードリッヒ・ヴィルヘルム四世によって設計された角突きのヘルメットの一バリエーション。尖った形状のものや鳥をかたどったものなど様々なデザインがある。